タイトル:ファイアパンチ
著者:藤本タツキ
巻数:8巻 完結
出版社:集英社
掲載誌:少年ジャンプ+
発行年:1巻 2016年~8巻 2018年
なんで俺に生きて…なんて…
ファイアパンチ 3巻28話
酷い事を言ったんだよ……
こんにちは。漫画キャットの菜葉ねここです。
ファイアパンチは少年ジャンプ+で週刊連載されていた完結済の漫画です。
衝撃の第1話がインターネットで話題になり、「このマンガがすごい!」ランキング オトコ編2016年9月分で第1位を受賞したこともある人気作品です。
中盤~最終話は賛否両論ありましたが、この漫画は1話から最終話まで一貫して本当にすばらしいので、このレビューでは私なりにファイアパンチの魅力を伝えられたらなと思います。
あらすじ
ドマという男に、暮らしていた村と愛する妹ルナに火をつけられた主人公・アグニ。
焼き尽くすまで決して消えないドマの炎の祝福と、燃えるそばから体が再生し続けるアグニの再生の祝福の間で、アグニは長い間死ぬこともできずに壮絶な苦しみを味わった。
ルナも再生の祝福者だったが、再生能力が低く、アグニが彼女を見つけた時にはもうドマの炎に焼き尽くされ果てかけていた。
アグニは愛する妹とこのまま死ぬことを望むが、妹は死ぬ間際に言ったのだった、
「生きて…」
アグニは死ぬことができなかった。
妹の最期の願いを叶えるために、生き続けるアグニを描く物語。
漫画という芸術作品
この漫画がすばらしいのは、ただ主人公の復讐物語を起承転結に沿って描いただけのストーリー漫画ではないというところです。
ストーリーももちろん面白いのですが、この漫画の本領はそのメッセージ性にあります。
アグニの人生を追うことで私たち読者が何を感じ、何を考えたか?
ストーリーへの好奇心を刺激され「ああ面白かった」だけではない、ただ人が死んで「悲しい」だけではない。もっと複雑な、生を受けた人間の感情、私たちの心の奥深くにまで届く漫画と言えます。
「なんで俺に生きて…なんて…
酷い事を言ったんだよ……」
作中でこのセリフを読んだとき、胸が苦しくなりました。
こんな台詞は生きる苦しみを知っていて、かつそれを自分の中で咀嚼することができ、読者に伝えたいことがあって漫画を描いている人にしか書けないと思います。
私はこの漫画を芸術作品だと思っています。
漫画はエンターテイメント性が高い媒体なので、ストーリーが面白いものが優れていると思っていましたが、ファイアパンチを読んで、漫画という媒体の可能性を見出しました。
この漫画が芸術たる理由のうちの1つに、画力と演出力があります。
何と言っても素晴らしいのは、キャラクターの表情です。
藤本タツキ先生はリアルタッチの中にも漫画的なかっこよさ・かわいらしさがある魅力的な絵を描かれ、画力が高い作家ですが、ファイアパンチは群を抜いて絵がすごいです。なんかゾーン入ってる?と思わざるを得ない…
見せ場のシーンで、大コマがぱっと目に入ってきて、キャラクターが台詞を喋っているんですけど、このキャラクターがこの台詞を言うときは、この表情以外ありえないという表情をピンポイントで描いてくるんですね。
その泥臭い表情を目の当たりにしたとき、「生きたキャラクター」を感じます。
また、演出面で舌を巻いたのが映画の演出です。
作中ではトガタという映画オタクのキャラクターが登場するのですが、彼女は準主人公と言っても良いくらいアグニの人生に影響を与えます。
その影響力の表現として、映画館でのキャラ同士の邂逅という演出があり、これが本当に凄いなぁと。ストーリーとは全く関係のない架空の世界観で作品を進めていくことができる作家なんですよね。
ストーリー内でトガタは映画を撮っている設定なので、映画のようなコマ割りもいくつか見られ、それもまた余韻を残すので読んでいて気持ちがいいんですよね。
トガタが登場してからのファイアパンチはストーリーも加速してより面白くなってきます。
書き込み量、練り上げられたストーリー。
この漫画が週刊連載だったとは未だに信じがたいです。
ものすごく命を削って描かれているのかもしれませんが、毎週高い完成度で掲載されるうえにキャラクターのゾッとするような表情を見ちゃうともう表現力が天才のそれとしか言いようがないです。
この先のレビューはネタバレを含みます。
藤本タツキの描く兄妹が良い
藤本タツキ先生の漫画はおそらくすべて読んでいると思いますが、藤本タツキ先生が描く兄妹はぐっとくるものがありますね。
私は兄妹もののシチュエーションが好きでして、漫画をチェックする上で重要なポイントのうちの1つなのですが、その点で藤本タツキ先生はかなり信用できると言えます。
藤本タツキ先生は、藤本タツキの妹という設定でツイッターをやっていて好感が持てます。
ファイアパンチでも、死んでしまった妹にそっくりのユダと出会ったアグニは、ユダと妹を重ねてしまい、敵であるユダを殺すことができません。また、ユダが記憶を失った際は「兄さん」と呼ばせ、それでいてやることはやってしまうなど、中々の倒錯っぷりが楽しめます。
私の書き方だと少し俗っぽくなってしまって先生には申し訳ないのですが、兄妹オタクとしては情緒がありとても切ない気持ちになったりやるせなくなったりするのでおすすめです。
賛否両論だった最終話
最終話では、宇宙でサン(アグニ)とルナ(ユダ)がめぐり会い、物語はアグニの人生と共に終焉を迎えました。
この最終話は本当に賛否両論で、「意味が分からない」といった感想も見かけましたが、私にとってはすばらしい最終話でした。
先述のとおり、ファイアパンチとはアグニの復讐物語ではなく、ルナの「生きて」という呪いの言葉を背負ったアグニが生き抜く物語なんです。
どんなに苦しくても、どんなに辛くても、アグニはひたむきに生きてきました。
生からの解放。それがファイアパンチの最終話なんです。
アグニの生、そして死を見届け、私たち読者が何を思うか?
そこまでがファイアパンチという作品だという気がしてなりません。

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